高度プロフェッショナルは働く現場を知らない政治家の仕業

参議院で審議されている働き方改革の法案。その中に含まれる高度プロフェッショナル制度(高プロ)は、過労死を増加させるのではないと危惧されています。まさしくその通りだと思います。そして、そのような法案を通そうとしている与党や日本維新の政治家は仕事の現場を知らない人々だと言わざるをえません。

日本はGDPが世界第3位の経済大国です。しかしながら生産性の観点で見ると、一人一時間当たりのGDPはOECDの中でも下のレベルです。アメリカの3分の2しかなく、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、イタリア等にも負けています。ただOECD諸外国に比べて人口が多いのと、労働時間が長いために、総額としては高いGDPを稼ぎ出しているということです。

人口が減少し、高齢化が進む中、生産性を向上していかなければ経済力を高めていけない、というのは経営者側も働く者としても一致する認識ではないでしょうか?そのためには、生産性向上を阻んでいる原因を突き止め、改善していくことは不可欠です。この原因と改善策については改めてブログに書かせてもらえればと思います。

政権は生産性向上の切り札として、裁量労働制や高プロを導入しようとしていました。これらは要するに、働く人たちに裁量を与えて、時間繰りなど裁量をもって創意工夫してやることによって生産性が上がる、というものです。これは経営側にも働く人にもメリットがあると…裁量労働制は、労働時間は短くなるというデータの不備(1日に1時間しか働いていないとか、25時間も働いているとかいう訳の分からないデータ)が発覚し廃案になりました。ところが高プロはそのまま残っています。

裁量労働制にしろ、高プロにしろ、働く現場を知らない政治家が考えそうなことです。まず日本の生産性が上がらない理由が、なんで働く人たちの時間繰り裁量だと言えるのでしょうか?会社の仕組みや顧客との関係など他に原因は山ほどあるはずです。問題の原因を確かめないで案を出すという、典型的なお粗末なプランです。

百歩譲って、個人裁量により労働時間が短くなったとします。これまで9時~20時まで働いていたのが、18時で終わるようになったと。働く現場の人々ならすぐ分かるのですが、だからといって18時で帰れるわけがありません。上司は「悪いけど、今人手不足なので短縮された2時間分の仕事を増やすよ…」と言うに決まっています。読者の皆さんが上司であっても、そうなってしまうのではないでしょうか?それを社員が断るのは容易ではありません。同僚が長時間労働をしているのに自分だけ「お先に」と言えない風土があるのはすぐに分かることです。欧米のように職務記述書で仕事内容が比較的明確にされ、それによって給料が決まっているといった会社と社員の関係が対等な国であればまだしも、今の日本で「当初以上の仕事をするのであれば、給料を増やしてくれ」というのも容易でないのは明らかです。

高プロができると、年収が1,075万円以上の人達に関しては、年間一定のやすみをとる以外は際限なく働かなければならないリスクがあります。1,075万円は高給だから関係ない、と思われる方も気を付けなければなりません。今回は廃案になりましたが、裁量労働制を通そうとしていることから見ると、その最低年収額が1,075万円から徐々に下がってくることは、過去に派遣法が限られた職種から広がっていったことをみると明らかでしょう。最初は少なくから初めて、なし崩し的に広げようとしているのです。

これに対して、日本維新は与党に反対だけするのではなく修正だといって「一度、高プロに同意したとしても後に撤回できる」というのを法案に入れたと胸を張っています。これもまた、仕事の現場を知らない典型的なお粗末さ。会社と働く人々の関係は対等でないというのを知らないのです。一度決めた高プロ待遇を社員側から撤回できる権利があるからといって、社員が会社に待遇変更を対等に言えるような状況であるのであれば、なんでこの日本に過労死などという悲劇が起こるのか?これは今の日本の労働慣行や仕組みが、まだまだ転職がしにくいとか、日本人の勤勉観とかで会社に物申せない風土があるからではないでしょうか?

会社に対して「それはお断り」と言えない風土が依然としてある。こんなことも分からずに、法案を作る安倍政権、そして修正案を出したと自慢している日本維新の政治家は、仕事場でちゃんと働いたことのない人たちなのだろうと思わざるをえません。

村上のりあつ【衆議院】大阪府第1区総支部長
大阪生まれ、大阪育ち。 同志社大学卒業後は主に東京で仕事をし、アメリカのイェール大学では経営学を学びました。 コンサルティング会社、グローバル企業であるロイター通信やフォード自動車等では人事の責任者として経験を積み、長年ビジネススクールの講師も務めております。 グローバルと日本の両方の経験を、是非とも大阪の皆さんとともに国政に活かしたい、その思いでいっぱいです。

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