アメリカ議会のネジレは、チェック&バランスとして機能している!?

アメリカの政治がトランプ大統領になってから、色々と物議をかもしています。入国拒否の大統領令に対して、司法長官が異議を申し立てたかと思うと、大統領が最高裁まで上訴するかはたまた新しい大統領令を出すか、といった勢いです。議会が動き出したら、議会も様々な動きにNOを突き付けることが起きるのでしょうか。

オバマ大統領の時に次のようなケースがありました。彼が通そうとした銃規制法案では、共和党議員だけでなく民主党議員も反対に回ったため、民主党員が過半数だったにもかかわらずこの法案は廃案になってしまいました。オバマ大統領が「アメリカの恥ずべき日だ!」と吐き捨てるように言っていたのが思い出されます。

一方で、TPPなどの通商協定の交渉権限を大統領に付与する法律であるTPAという法案がありました。大統領が交渉するのに、交渉後に持って帰って逐一議会がチェックしているとTPPを早く進められないので、一括採決するというものです。これについては、TPPに消極的な当時の与党民主党が慎重だった中、共和党が賛成に回り超党派で決まりました。共和党の方が当時は自由貿易を推進する考えが強かったので、オバマ大統領に一任する法案を通したのでしょう。

要するに、アメリカは与党だからといって、必ずしも大統領の意見にOKという訳ではない、ということです。大統領も議員も選挙で選ぶ、二元代表制ですから当然といえば当然です。上下両院の議員は、強い権限をもつ大統領とはいえ、その暴走を止めたり、後ろからあるべき姿に向けて後押ししたりするために仕事をしているのでしょう。先程の司法長官の話も、自己の責務に則って入国拒否がアメリカの法律に照らして正しいかどうかを判断しているのでしょう。

アメリカでは、日本の衆議院にあたる下院の選挙は2年ごとに解散されます。大統領選とともに行うのと、4年後の大統領選のちょうど真ん中の2年後に行います。これが中間選挙と呼ばれるもので、日本の参議院的な上院も任期6年の定数は100ですが、2年に1回のペースで3分の1が改選されていきます。要するに、ここでもまた、強い権限をもつ大統領をけん制できるように、大統領がヘマをするとねじれを起こす機会を作っているわけです。大統領に強い権限を付与する一方で、二元代表制という仕組みゆえの工夫です。

一方、日本の国政はどうでしょうか?日本は議院内閣制ですから、内閣総理大臣は与党議員が選び、与党議員は内閣総理大臣を支えるというスタンスになります。支えるというと聞こえはいのですが、力のある総理大臣の力がさらに強くなるということになり、強力な権力になりがちです。

司法・行政・立法と三権分立させて、一局に権力を集中させないというのは近代国家の知恵です。ただ、行政の長である内閣総理大臣は与党議員が選び、そしてその与党は立法府で過半数をもっているため、内閣総理大臣は立法府も掌握しやすくなるわけです。安倍総理大臣が昨年の国会答弁の最中に「私は立法府の長」と三権分立に反する失言をしてしまったのは、その権力の強大さの本音が出たのでしょうか。内閣総理大臣は行政府の長であり、立法府の長ではけっしてありません。

内閣総理大臣が法案を出す前段階で党が意見を言うという形式はあるものの、相当な力で内閣の法案が決まっていきます。例えば、2015年に強行採決された安全保障法制に関して、自民党の中には反対という勢力があってもNOとは言いにくいわけです。特に、衆議院の選挙が小選挙区制なため公認権限をもつ執行部の力が強く、多くの議員が執行部になびいていくわけです。安倍一強と言われている状況です。

こういった議院内閣制でも、国会議員ともなれば色々な政治信条はあると思います。例えば、ある国会議員が厚生労働委員会で働き方改革の議論をして法案を詰めたとして、他の与党議員から賛同をもらい法案が通るとします。しかしだからといって、安全保障法などのような重要法案で、自民党が呼んだ憲法学者も違憲といっている法案に対して「はいそうですか!」とそのまま通すことにはならないのが普通ではないでしょうか。カジノのような依存症という大きなマイナスをもたらす法案もしかりで、異論が出ることこそが健全な状態だと思うのですが、いかがでしょうか?

議院内閣制ということであれば、特に重要法案に関しては、その法案を党内で、そして野党も含めた議会でとことん議論して、最後は合意なり修正なりして決まるというが正しいプロセスだと思います。もちろんゼロイチではないので、まったくなされていないとは言えませんが、どうもそれが健全だといえるようなレベルになっていないのが現政権ではないかと思っています。あげ足をとるわけではないのですが、長年政治にかかわっておられる安倍総理大臣が「私は立法府の長」とあり得ないことを言ってしまうくらいですから。

私見ですが、長期的には統治機構改革の一環として、総理大臣の公選制のようなものを導入して、権限を強化させはするが議会のチェックもしっかり効かせる、といった仕組みにするのが必要なのではないかと考えます。この変更は大きなものですが、長期的な視座として考えておくべきではないかと。昨今のトランプ氏の動きとそれに対抗するアメリカの司法の動き、それと現政権の議論レベルを見て思ったしだいです。

村上のりあつ【衆議院】大阪府第1区総支部長
大阪生まれ、大阪育ち。 同志社大学卒業後は主に東京で仕事をし、アメリカのイェール大学では経営学を学びました。 コンサルティング会社、グローバル企業であるロイター通信やフォード自動車等では人事の責任者として経験を積み、長年ビジネススクールの講師も務めております。 グローバルと日本の両方の経験を、是非とも大阪の皆さんとともに国政に活かしたい、その思いでいっぱいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です